『ソロモンの油注ぎ 前編』 Ⅰ列王記1章11−53節

<前回までのあらすじ> 前回はダビデの衰えと、そんな時に持ち上がったアドニヤの謀反について学びました。確かに、アドニヤやヨアブ、祭司エブヤタルのしたことは「神の選び(油注ぎ)」に背く罪でしたが、神様はこの事を通してもダビデが今しなければいけないこと、つまり「後継者指名」という残された使命を明らかにされたのです。

この時も立ち上がったのは預言者ナタンでした。このナタンは、ダビデがバテシェバとの罪を犯した時、それを勇敢かつ非常に賢く悔い改めへと導いた、あのナタンです(Ⅱサム12章)。しかも彼は、ダビデがかつて「神殿を建てたい」との願いを告白した時、「(それをするのはあなたではなく)あなたの日数が満ち、あなたが先祖とともに眠りにつくとき、わたしは、あなたの身から出る世継ぎの子をあなたの後に起こし、彼の王国を確立させる。彼はわたしの名のために一つの家を建て、わたしは彼の王国の王座をとこしえまでも堅く立てる(Ⅱサム7:12−13)」と、預言をしました。

そのナタンが、アドニヤの謀反に際して、バテシェバに助言を与えています。彼は言いました。「さあ今、あなたに助言をしますから、自分のいのちと、自分の子ソロモンのいのちを救いなさい(12)」。これは、もし今、行動を起こさなければ、あなた(バテシェバ)も、あなたの子(ソロモン)も殺されてしまうでしょうということです。事態はそれほど緊迫していました。すぐにでも動かなければ、彼らはもちろん、アドニヤの宴会に呼ばれなかった、ナタンの命も危ないことを、彼は悟っていました(10)。

バテシェバは、ナタンの忠告に謙遜に従い、言われた通り迅速に行動しました。その時ダビデのもとには、自分よりもはるかに歳の若いアビシャグが仕えていましたが(15)、バテシェバはその場でひざまずいて、深々と礼をし、自分のことを「はしため」と呼んで言いました。「あなたは『必ずあなたの子ソロモンが私の跡を継いで王となる。彼が私の王座に就く』と、このはしためにお誓いになりました。(17)」

バテシェバは、感情的になりすぎることなく、アドニヤがいかに我が子ソロモンより劣っているのか悪口を言うこともなく、冷静にダビデが立てた「誓い」に訴えているのです。そしてやんわりと、まだダビデが事態の深刻さに気づいていないことと(18-19)、全国民の目は王の決断に注がれていること(20)、いま行動してくださらなければ自分たち親子は死んでしまうこと(21)などを告げました。そして律法に基づき、その内容を二人以上の証言とするため、ナタンも入って来て、同じことをダビデに訴えました。その際「あなたは、だれが王の跡を継いで王座に就くのかを、このしもべに告げておられません(27)」と言っていることから、ソロモンが王になるとの誓いは、まだ公ではなかったと考えられます。

バテシェバの賢さは、かつてのヨアブの言葉を比べるとよくわかります(Ⅱサム19章1−8節)。私たちは時に、自分の訴えを聞いてもらうために、わざと大げさに強い口調で語ってみたり、高圧的に出てみたり、人のことをこき下ろして、自分の正当性を訴えたり、相手の心をえぐることをわざと言って人を動かそうとします。でもバテシェバは、ただ「事実」と「誓い」に基づいて訴えました。

祈りも同じです。自分の気持ちも大切ですが、事実(みことば)と誓い(神様の御約束)に基づいて祈ることが大切です。「主よ、あなたは怒るに遅く、情け深い神です。あなたは、耐えられないほどの試練に会わせることなく、必ず脱出の道も備えてくださるお方です。あなたはどんな時にもともにいいて、主を恐れる者を祝福してくださいます…etc」その時主が「あなたに誓ったとおり、必ずそのとおりにしよう(30)」とおっしゃってくださいますように。